2月のおはなし ~やられてもやり返さない~

今さらですが日曜劇場・半沢直樹、面白かったですね。
決め台詞の「やられたらやり返す、倍返しだ!」は2013年の流行語大賞になり、昨年のシリーズでは新たに「施されたら施し返す、恩返しです!」も生まれました。

この台詞を仏教的にみるとどうなるでしょう。
釈尊は【ダンマパダ(法句経)】の中で「恨みに対して恨みで返せば、恨みは止むことがない。恨みを捨ててこそ止む。これは永遠の真理である。」と説かれ、また伝教大師最澄さまは【伝述一心戒文】に「怨(うらみ)を以(もっ)て怨に報(ほう)ぜば怨止(や)まず、徳を以て怨に報ぜば怨即(すなわ)ち尽(つ)く」と残されています。
どちらも、恨みを晴らすために仕返しをすればそこからまた恨みが生まれキリが無い。自ら恨みの感情を克服することで負の連鎖を止めるのだという事です。

半沢直樹も理不尽な仕打ちを受け、出世など他者の欲望の為に自身を利用されて怒りや恨みの感情がさぞや募ったことでしょう。
さらに彼は正義感も強いですから不義や不道徳を働く輩を許せない気持ちもあったのかもしれません。
しかしそれでもやり返さないのが仏の教えです。
たとえ自らに報復するに足る如何なる理由があったとしても、された側がそれを理解しなければそこには恨みだけが残ります。
医師の中村哲さんが亡くなられたアフガニスタンでは、米国同時多発テロの首謀者を匿っていることを理由にした米軍の掃討作戦で多くの犠牲者が出ました。
そしてその報復として新たなテロや破壊が行われ治安は一層悪化し、解決の糸口はいまだ見えません。
まさに恨みと憎しみが連鎖して絶えず、もう発端も理由も意味をなしません。

ただでさえコロナ禍という大きなストレスにさらされている現在の私たちが、恨みを晴らさず相手を許すことは簡単ではないでしょう。
しかし、自分と同様に相手も大きなストレスの中で生活していることを理解すれば、反射的に恨みの感情を持つ前に相手の境遇や心情を推し量れるだけの余裕が生まれるのではないでしょうか。

さて、やはり仏教的には「恩返し」の方が合っているようです。
そして願わくばいつか恩返しがさらに昇華し「まず私から施します、見返りは求めません!」(布施行の実践で心がけること)も流行語になることを願っています。

弁天堂境内では梅が咲き始めています


東叡山寛永寺 教化部