11月のおはなし ~最高のお経は?~

11月24日は、私たち天台宗を中国で開かれた天台大師(てんだいだいし)智顗(ちぎ)さまのご命日です。寛永寺だけでなく、全国の天台宗寺院ではその徳を称える法要が行われます。

天台大師が活躍されたのは今から約1,400年以上も前の中国です。当時の中国仏教界では、お釈迦さまが説かれた「お経」がどのような順序で説かれたのか、さまざまな学説が飛びかっていた時代でした。お釈迦さまは古代インドの方ですから、もちろんインドの言葉を使って説法をされていました。また、お釈迦さまは四十数年にわたる説法をされていたので、本来だったら説法にも順序があったはずです。

ところが「お経」が中国に伝わると、説法の順番は関係なく次々に漢字に翻訳されました。お釈迦さまの教えをいち早く知りたい当時の事情として仕方がないのですが、翻訳された「お経」が膨大になったときに、初めて説法の順序や「最高のお経(教え)は何か?」といったことが問題となったのです。

こうしたなか、天台大師は「お経」についてたいへん広い視野をお持ちになって、次のように述べていらっしゃいます。

一切の大乗経(だいじょうきょう)にただ一法印(いちほういん)有り、いわゆる「諸法実相(しょほうじっそう)」なり。
(あらゆる大乗経典に共通して説かれている旗印はたったひとつである。それが「諸法実相」なのである)  『維摩経玄疏』

「諸法実相」は、お釈迦さまが『法華経(ほけきょう)』でとても大切にされることばです。そのために『法華経』が最高のお経だと捉えた僧侶も多くいるなか、天台大師は「諸法実相」が実は全ての大乗経典の根底に脈々と流れていると捉え、「お経」に優劣はなくすべて同じく尊いことを強調したのです。こうして、現在でも天台宗では『法華経』だけでなく実にさまざまな「お経」をお唱えしています。

ところで、みなさまの「好きなお経」は何でしょうか。この機会にぜひ見つけてみて下さい。

天台山で長く修行されたことから「天台大師」と呼ばれています。私たち天台宗は、その山の名を宗派名にしています。