いよいよ今年も押し迫って参りました。12月は「師走」とも呼ばれ、「お坊さんが走り回るほど忙しい」といったことが語源とも言われています。では、お坊さんは本当に走ることがあるのでしょうか。
今年は、比叡山で千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)が達成されたというニュースがありました。比叡山を中心に千日間にわたってまるで走るかのようにあちこちをお参りするという、戦後十数人しか修行していない荒行です。あまりの過酷さに「回峰地獄(かいほうじごく)」という言葉もあるほどです。
この修行は、千日という「時間」と全行程およそ40,000キロという「距離」がどうしても強調されます。確かに想像を絶するものではありますが、この修行を始められたと言われる平安時代の僧侶・相応(そうおう)和尚は、この修行の根幹にある精神を大切にしようと考えました。
その精神は『法華経』の経文にありました。お経では時間と距離にまったく触れず、「常不軽菩薩(じょうふぎょうぼさつ)」がお参りをした際の心構えが重視されたのです。常不軽菩薩は、道行く人みんなをお参りしました。会う人会う人全員をお参りしたのです。突然お参りされた人は気味悪がったりもしたのですが、常不軽菩薩は次のようなことを考えていたのです。
われ深く汝等(なんだち)を敬う。あえて軽しめ慢(あなど)らず。ゆえんはいかん。汝等は皆な菩薩の道を行じて、まさに仏と作ることを得べければなり。
わたしは皆さんを敬います。絶対に軽蔑したりいたしません。その理由は、みなさんが仏さまの歩む道を歩まれ、きっと仏となることができる方々だからです。(『法華経』)
何かと慌ただしい暮れではありますが、これから会う人は実はみんな仏、という見方はいかがでしょうか。きっと優しく走ることができますよ。
12月のおはなし ~お坊さんも走る~